システムバイオロジー・脳・人工知能 ロボカップが複数の研究を加速する 北野宏明 (株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長、所長

professor's TALK

システムバイオロジー・脳・人工知能 ロボカップが複数の研究を加速する

私が取り組んでいる最も大きなテーマは、システムバイオロジーという生物の研究です。システムバイオロジーでは、生命を一つのシステムとして捉えます。システムというのは、中にタンパク質があってそれがネットワークになっているということですが、生命をネットワークとして理解することで、新しい薬や診断方法ができると考えています。

一方、私が現在もFounding Presidentとして関わっているロボカップでは、ヒューマノイドロボット、つまり自律的な人型のロボットのサッカーチームで、西暦2050年までにワールドカップのチャンピオンに勝つことを目標にしています。1997年からスタートしたロボカップでしたが、現在では世界的なイベントになっています。

さらに3つ目のテーマとして、2010年頃から、エネルギー問題への関心から、再生可能エネルギーのプロジェクトに取り組んでいます。再生可能エネルギーといえば、たとえば太陽光であれば、ソーラーパネルを住宅の屋根の上などに置く、というようなかたちですでに実用化されています。私が考えているのは、そうした住宅同士のバッテリーをつないでネットワークにすること。それによって再生可能エネルギーで必要な電力を完全に供給することです。これは主にアフリカ、インド、アセアンの一部で進めようとしています。

私は大学院では素粒子論を専門としていましたが、その後人工知能への関心が高まり、脳や人工知能の研究を始めました。とりわけ知能に興味があったので、「コンピューターで脳をつくることができないか」「チップの上にインテリジェンスがどれだけ乗るか」と考えたのがはじまりでした。

ところで、知能というのは動物の進化の副産物です。種は、生存して自己複製すること、つまり子孫を作っていくことによって保存されます。脳や知能もそれ自体、自己目的的に存在するのではなくて、生命が生存し、子孫を残す確率を上げるためにあるのです。人工知能を作るにあたっても、進化の過程における知能の役割を理解しなくてはいけない。そうなると脳だけでなく、それを下支えしている生命を理解する必要が出てきます。

生命の最も小さく、単純な単位は細胞です。1993年頃から、生物学の勉強をきちんとやろうと考えて、はじめに手を付けたのが細胞の老化の研究でした。ただし、細胞を生命の中に位置づけようとすると、システムとして理解する必要がでてきます。システムバイオロジーの研究を始めたのは、このような経緯でした。

しかしシステムバイオロジーの研究に取り組む一方で、脳、人工知能の研究も進めなければなりません。そこでテーマとして出てきたのが、ロボカップの主役でもある人型ロボットでした。人型のロボットは、システムとしての生命、人工知能に加えて、知能が環境と相互作用する中ではじめて発現するものです。つまり人工知能やロボットの研究が20年後、30年後に世の中にどれだけ大きなインパクトをもたらせるか、そしてその研究をどうしたらどれだけ早く推進できるかということを考えて提唱したのが、ロボカップだったのです。

私の研究は、知能、ロボットというテーマから、システムとしての生命、さらに医療というテーマにまでつながります。今後はさらに、世の中で大きな問題になっているエネルギーというテーマに挑戦していきたいと考えています。互いに様々な相関を持つこれらのテーマに、全体として取り組んでいくことが、私の研究となっているのです。

SCHOLAR講師

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