実はカンタンな図解の技術 今泉 洋 武蔵野美術大学・デザイン情報学科教授

professor's TALK

図化考察の基本パターン

効率的に自分のアイデアを相手に伝えたり、他人とアイディアを交換するにはどうすればよいのでしょうか? ふつうに考えると、内容をできるだけ詳細な文章にして伝えようとしますね。パワーポイントなど視覚的な資料を作る場合でも、ていねいに文章を書き綴って、「ここまで事細かに説明したんだから問題はないだろう」と言いたげなスライドをよく目にします。確かに文章の流れを逐一追って最後まで読めばそれなりに理解することはできるのですが、こういうやり方では一目でその全体像を掴んだり、重要なポイントを素早く理解することは困難です。そこで代わりに「図化」という手法を使うことを考えてみましょう。

図というと、地図や円グラフ、マンガ、イラストなどいろんな表現を思い浮かべるでしょうが、ここで取り上げるのは写実的だったり絵的な表現ではありません。極めて簡単な線だけで構成されるグラフィックスで、一般に「コンセプトマップ」という名前で知られているものです。

コンセプトマップは、コンセプトを円や四角の中に文字を書き込むことで表現し、知識を組織化したり、表現したりするためのグラフィカルツールです。複数のコンセプトを平面上にレイアウトしたり、線でコンセプトどうしを関係づけたり、また結びつけた線上に単語やフレーズを書いて関係を明らかにすることもあります。ポイントは文章のように線的な流れとして全体を説明するのではなく、要素をモノのように平面的に拡げて、レイアウトで全体と部分の関係を見せる方法に切り替えてしまうことです。これによって、自由に視点を動かしながら内容を読み取ったり、操作することができます。

図化において重要なのは、必要な情報のみを残してその他の情報は捨ててしまうことです。いや、より正確には「隠してしまう」と言った方が良いでしょう。「折りたたむ」という言い方もありますが、考え方としては「引き出し」を想像してください。詳しく説明したい、いろんなデータを見せたいのはやまやまだけれど、それを最初から全て見せようとすると情報過多で混乱してしまいます。そこで一旦引き出しの中にデータを入れて閉じてしまいます。ただその引き出しにラベルをつけておいて、それを読めば中に何が入っているかはわかるようにします。つまり、詳しい説明を見出しとは別のところに用意しておくわけで、この意味ではパラグラフ・ライティングという手法に似ています。まず必要な情報をラベル化する、その際どのようにラベリングするか、またラベル相互の関係をどのように視覚的にスムーズに伝えていくかが図化の基本になります。

図化の基本的なパターンとしては4つあると考えれば良いでしょう。「部分と全体」「順序」「比較」そして「脈理」です。

まず「部分と全体」ですが、ここでは「バブルマップ」と言う図を取り上げます。中心円から腕が生え、そこにまた複数の円が繋がるお花のような形をしていますが、その中心円が全体のコンセプトを示し、周辺の円が部分を示します。中心円にはメイントピック、つまりラベルを入れ、部分には全体を支える特徴を入れていく。たとえば中心円に「即席麺」が入るとすると、周辺円には「早い」や「おいしい」といった特徴が入っています。これで今検討したいものの全体像を一度にわかりやすく提示することができます。文章化するレベルには達していない、整理できてない要素を抽出していく作業やブレインストーミングのアイディア整理などにとても便利です。

「順序」では、事象の変遷、因果関係などを矢印に示すことで、全体の流れを一目でわかるようにします。

「比較」では、先の「部分と全体」の図を組み合わせて使います。例えば「袋麺」と「即席麺」について比較する場合、先程と同様、それぞれについてバブルマップを描きます。袋麺でいえば、その特徴としては「早い」「おいしい」「作るのが面倒」「どんぶりが必要」などがあり、即席麺では「早い」「おいしい」「作るのが簡単」「どんぶりが不要」などがあります。これらの特徴の中に、重複しているものがいくつかありますので、それらを2つのラベルの間で共有するように、共通していないものは離れた場所におくようにバブルマップを描いていきます。これは「ダブルバブルマップ」と呼ばれるもので、2つのものがどういった特徴を共有して、どういう点で異なるのかを一目でわかるようにしてくれます。

最後の「脈理」ですが、ここでは「マルチフローマップ」と呼ばれる図を使います。これは「順序」の発展版ともいえる形式で、順序よりは複雑に、多くのボックスが矢印で結ばれています。世の中を見てみれば、因果関係が1対1対応に出来ているものは実は少なくて、ある現象は複数の原因によって生じ、また複数の結果を生み出すことがほとんどです。

例えば「遅刻」という現象を考えてみますと、その一つの原因としては「夜更かし」が考えられ、また結果としては「信用をなくす」というものが考えられます。これら以外にも「準備が遅い」などの原因や「成績が下がる」などの結果もありえます。でももし、「夜更かし」→「遅刻」→「信用をなくす」という1対1対応の順序しか示さなければ、その他の原因や結果について考えることは困難になってしまいます。そこでマルチフローマップを使うことで、複数の原因と結果を同時に見えるようにするわけです。こうすることで初めて「遅刻」を本格的に治していくための覚悟ができるようになります。

最後に、上手な図化のコツを簡単に説明しておきましょう。ポイントは2つあります。「コンセプトをきちんとオブジェクト化する」、そして「出来るだけ人間の直観に訴えかけるようにオブジェクトをレイアウトして図を作る」ということです。

まず心がけるべきは、コンパクトなラベリングですが、図を描くという点ではノイズのないボックスやサークルを作ることが必要です。具体的に言うと、途切れのない、はっきりした、安定した濃さの線で図のパーツを描き、関係をきれいな線で結びます。図を見る人は、図という視覚的なきっかけから考えという想像力を駆使する領域に入っていかなければなりません。線が途切れていたりすると、それが邪魔をして意識が乱され「図から考えを読み解く」最初のプロセスでつまづいてしまいます。丁寧さに欠けた乱暴な線のいい加減な図では良いスタートが切れません。

次にレイアウトですが、人間の視線には長期的・短期的にも慣性が働いています。日頃慣れ親しんだ方向に沿って情報を受け入れ、処理していきますので、その流れに逆らわないよう工夫することが重要です。この視線の流れは、文章を縦に書く文化か、横に書く文化かによっても変わります。縦書きで全体を構成するのであれば画面の右上から左下にかけて、横書きであれば左上から右下にかけて視線が動くと考えておくべきです。

例えば、「順序」や「脈理」などのパターンで、全体の流れを視線の流れと逆方向に書いてしまうと理解を妨げる原因となってしまいます。また、人間には「小さいものより大きいものにより注意を向ける」という性質があります。これを利用すれば、バブルマップやフローマップの中でより重要な要素のボックスやサークルを他より大きく描くことで、直観的に重要度を把握させることができます。

SCHOLAR講師

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