情報爆発を抑える粘菌コンピュータとはなにか 原 正彦 東京工業大学・総合理工学研究科 教授

professor's TALK

情報爆発を抑える粘菌コンピュータとはなにか

私は現在、「揺律」という言葉をキーワードに、粘菌コンピュータの研究を行っています。

私は原子や分子のような小さなものを見たり、その物性を計測したりする、ナノテクノロジーという分野から研究を始め、その後に自己組織化をテーマとして研究を行うようになりました。自己組織化とは、一般に世の中のものがエントロピーを増大させてバラバラになっていくのに反して、我々生物のように、組織だったまとまりができていくような現象を指します。私の出身が有機材料という専門分野だったため、有機分子が何故我々のような形になるのかという疑問からスタートしたわけです。

さらにその後、時空間機能をキーワードとして研究を行うようになります。時空間機能とは、我々が1995から97年ごろに提案した言葉です。通常我々が使っているコンピュータなどは、構造という空間的な制御によって間違いなく動くようにしています。それに対して時空間機能というのは、空間だけでなく次元の機能も加えて考えようとした言葉です。

時空間機能という言葉も近年、ずいぶん浸透してきました。そこでさらに一歩進んで、最近では自己組織化と時空間機能を合わせた概念である「揺律」「創発」をキーワードに研究を行うようになりました。揺律というのは「揺らぎを律する」または「揺らぎによって自律する」という意味の造語です。揺律という言葉は、揺らぎという概念をもっと積極的に使っていこうという発想がもとになっています。

粘菌コンピュータは、揺律の具体的な研究として生まれました。粘菌を使って情報処理をするコンピュータを作ろうというのが粘菌コンピュータの目的です。そして現在では、この研究を生命の起源の解明へとつなげようとしています。

粘菌コンピュータの一番のポイントは、情報爆発を抑えて計算を行うことができるという点です。世の中には山ほど情報があるので、その中から最適なものを選び出そうとすると計算が爆発します。つまり計算に何万年という時間がかかってしまうのです。

情報爆発という状況をよく表したものに巡回セールスマン問題というのがあります。これはセールスマンが複数のカスタマーを巡る際に最短で行く経路を考える問題なのですが、4人のカスタマーだけならば3つくらいしか組み合わせがありません。しかし8人になると2520通りになります。つまり情報爆発というのは、ある指標に対して、初めは少ないんだけど途中から組み合わせが爆発的に増えてしまうという問題です。

情報爆発の中では、理研の京コンピュータを使っても計算に何万年と時間がかかってしまいます。しかし粘菌を使って情報処理をすると、この情報爆発を抑えられます。ただし、情報爆発を抑えながら情報処理をするというのは、最も正しい答えを出すということではありません。平均よりはいい答えを出し、しかし計算が爆発しない。揺らいでいてもいい、すこし間違ってもいい、あいまいでもいい、だけど的確である。つまりそれは我々人間がやっていることに近いものです。つまり粘菌コンピュータとは、人間がやっているようなことをコンピュータにやらせようという研究なのです。

SCHOLAR講師

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