ドクターヘリの今後の展望 ‐ 救急システムの常識はどこまで打破することが可能か 町田 浩志 前橋赤十字病院 高度救命救急センター 集中治療科・救急科 副部長

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ドクターヘリの今後の展望 ‐ 救急システムの常識はどこまで打破することが可能か

ドクターヘリが今後目指すべきポイントは、「迅速性」と「壁を超える」の2点です。まず救急医療では、患者に医療が接触するまでの時間が少しでも遅れる生存率が大きく変わります。そのため「迅速性」こそが一番重要であると言えます。そこでこの迅速性の向上を目指して現在進む技術開発を2つご紹介します。

1つ目は、「AACN」と呼ばれる技術です。これまでにもACN (Automatic Crash Notification) という技術があり、これは高級車に設置されてきました。例えば事故が発生するとセンサーが衝撃を感知して自動的に保険会社に連絡します。そこでオペレーターが運転手に電話で呼びかけ、返事がなければ119番にすぐ連絡が行くというシステムです。この技術を発展させてドクターヘリに応用しようとしているのがAdvanced ACNすなわちAACNです。事故の衝撃と警察が持つ過去のデータから、自動車についたセンサーが乗員の重症度を自動的に割り出してドクターヘリの基地病院と消防署に同時に送ります。ですので、基地病院では消防からの要請がなくとも重症度からドクターヘリ出動の必要性を判断することができます。また消防署も同じ情報を持っていますので、現場にドクターヘリが着陸できる場所を確保するため人員を急行させることが出来ます。この技術は試行段階に入っており、現在は千葉県を皮切りに全国で実験が進んでいます。

もう1つ迅速性を上げるために進んでいるのが、「キーワード方式による救急搬送の要請」です。つまり、過去119番にかけてきた一般の方の言葉の中から、救急医療が必要となった確率が高いキーワードを選んで一覧にし、そのキーワードが含まれていたらすぐにドクターヘリを出動させようという発想です。通信司令官はもちろん人間なので迷うことがあります。また司令官の中には救命士をやっていた人もいれば、消防一筋で救急場面に接したことがない人もいます。そのため人間の主観に頼って救急搬送の判断をしている限りどうしても遅れが出てきてしまいます。そこでこの技術は、「キーワードが含まれているか・いないか」という客観的な基準を設け、人的理由による出動の遅れを最大限減らすことを目的としています。

ここまでが「迅速性」を向上するべく進む技術開発の例ですが、先程も申し上げた通り、もう1つの今後目指すべきポイントは「壁を超える」です。

ドクターヘリは各都道府県の予算によって運用されていますので、これまでは県境を超えて他の県に出動することはとても大変でした。そのせいで、例えば群馬県で要請があった際にそのヘリが他の案件で出動していた場合、埼玉など他の県にはドクターヘリが待機しているのに、群馬県のヘリが基地に一旦帰還してから再度出動しなくてはいけないというような大きな無駄が発生していました。

そこで近年は各自治体同士が連携を結び、このような場合には他の県のヘリが出動できるように整備が進んできました。現在では群馬・栃木・茨城などの関東地方、また中国地方や関西地方をはじめ全国で連携が進んできています。次に目指すべきは日本全体にこの連携を広げてすべての都道府県を結ぶことでいくことで、全国一丸となった連携によって、さらに無駄がない臨機応変な運用ができればいいなと考えています。

SCHOLAR講師

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