生命の起源の解明に、なぜ地球外生命体が必要か 高井 研 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長

professor's TALK

生命の起源の解明に、なぜ地球外生命体が必要か

これまで深海生物の研究を通じて「生命の起源はいつか」という問題に挑んできました。そして私が地球外生物の探索を志す理由も、実はこの生命の起源を解明することにあります。それではなぜ、地球外生物を見つけることが生命の起源の解明につながるのでしょうか。

生命の起源を知るためにまず明らかにしておかなければならないことは、「生命とはなにか」という問題です。なぜならば、生命の起源とは、非生命から生命へとその境界線を跳躍した瞬間であり、その境界線、すなわち「生命とはなにか」を明らかにしない限りは、それを飛び越えた瞬間もわからないからです。

生命とはなんでしょうか。実はこの問題は、ある程度明らかになってきています。我々生命は必ず摂食と排泄を行いますが、これをエネルギーの観点から見れば、エネルギーを体内に取り込み、そして排出していることに等しいと言えます。つまり生命とは、「摂食と排泄によるエネルギーの差分」として定義できるのです。

このエネルギーの差分で生命は何をやっているのかと言えば、それは元素や物質の交換です。我々の体を構成する物質は一見すると不変のように思えますが、実は絶え間なく体内の古くなった元素やタンパク質や水などの物質を新しいものと交換していて、古いものを壊し、新しいものに入れ替えることによって維持されています。

つまり生命とは、エネルギーによって元素や物質を絶え間なく交換する現象です。そして重要なのは、微生物から我々人間に至るまで、地球上の全ての生命が同じ一つのシステムでこの現象を支えているということです。このことは全ての生命が同じ起源をもつことを意味しています。

現在、生命の起源については、大きく分けて2つの仮説があります。1つ目は「地球上では一つのシステムの生命しか誕生しなかった」とする説であり、2つ目は「多様なシステムの生命が何度も生まれたが、そのうち生き残ったのは我々だけだった」とする説です。

1つ目の説の方が古く、1953年のミラーの実験に端を発しています。この実験では、原始大気の中に無機物を入れ火花を散らしました。これは原始地球で起きたことをシュミレーションしたわけですが、すると、アミノ酸のような有機物ができることが分かりました。

先に生命とは「エネルギーによって元素を交換するシステム」だと述べましたが、交換するためにはその材料が要ります。つまり、生命は材料があったから生まれたと言えるわけですが、その材料こそがアミノ酸のような有機物です。ここから、原始地球において有機物が作られ、それが組み合わさっていくことで生物が誕生したのだろうと考えられました。そして「こんなに複雑なことはランダムに起きるはずがない。非常に限られたチャンスだったのだろう」と考えられたわけです。

しかし70年代以降になるとこの説は下火になり、2つ目の説が勢いを持つようになります。その理由は、宇宙にもアミノ酸などの有機物がたくさんあることがわかってきたことがあります。宇宙で合成されたアミノ酸のような複雑な物質が、隕石によって地球上に落ちてくれば、それを元に様々なシステムをもつ生物が何度も生まれたかもしれない。そしてその中で生き残ったのが、たまたま我々の祖先だったのかもしれないわけです。

残念ながら、現時点ではこの2つの仮説のどちらが正しいのかは分かっていません。そして今後も、地球上の生物だけを研究している限り、分からないままでしょう。なぜならば、地球上の全ての生命が共有している「エネルギーによって元素を交換する」というひとつのシステムが、生命にとって絶対に必要な条件なのか、それとも全く異なったシステムでも生命となれるのかはわからないからです。

そこでこの問題を解決するかもしれないと期待されているのが、地球外生命の探索です。最近、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンセラダスに生命が存在している可能性が出てきました。

これらの星に行って生命を発見できた時、もし彼らが我々と同じシステムによって構成されているのであれば、やはり地球の生命に見られるシステムこそが生命にとって不可欠なのだということがわかります。そしてこの発見は、地球上で我々のような生命が誕生することは必然であったという説を支持します。

しかし一方で、もし地球外生命が我々と全く異なるシステムを持っているとすれば、それは生命現象は1つのシステムによってだけではなく、様々なシステムによっても成立することを示します。そしてこの発見は、地球上でも過去異なったシステムを持つ生命が複数生まれた可能性を示唆するのです。

これら2つの可能性のどちらが正しいのかを知りたい。これこそが、私が地球外生命体の探索を志す理由なのです。

SCHOLAR講師

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